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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
里見くんは、そのあと二十時まで細案作りに取り組んでいた。指導案の前段階というわけだ。
国語と数学の指導案は全然違うので、細かいチェックは佐久間先生にお任せするとして、生徒観から生徒の課題と解決の仕方を導くのは、まだ二日目の里見くんには難しいようだ。
できたところまでを印刷して、佐久間先生に渡してから、里見くんは帰ったようだ。教育実習というものに対しては、真面目に取り組んでいる、と思う。
私は校務をすることを早々に諦め、明日の授業用の資料を準備してから早めに帰ることにした。
「あ、しのちゃん!」
自転車置き場で私の名前を呼んだのは、稲垣くんだ。
化学の教育実習生。塾講師をしていたときの、元教え子。ジャージ姿で駆け寄ってくる。
「今帰り? 俺も一緒に帰っていい?」
「いいですよ。部活動?」
「そう、サッカー。宗介も誘ったのに、来なかったんだよなーあいつ。あ、しのちゃん、荷物取ってくるから玄関の前くらいで待ってて!」
屈託のない笑顔を向けられるのは嬉しい。含みのある笑みばかり向けられていたから、そう思うのかもしれない。
自転車に乗って玄関へ向かうと、ちょうど稲垣くんが出てくるところだった。
「お待たせ、しのちゃん。送っていくよ」
教訓。
男の子は、いつの間にか成長しているものだ。
私は、それを甘く見ていた。