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えっちな姉は俺の成長を喜んでいるらしい
第5章 俺の気持ち!!
人通りの多さと車の往来にかき消されたのが唯一の救いである。
「彼女じゃないですよ! 俺、まだそういうの居たことないですよ……」
「え!? そうだったの? てっきり彼女へのプレゼントかと思ったんだけど……」
先生は一瞬驚いたあと、申し訳なさそうに頭をかいた。
「いや、俺もちゃんと説明してなかったですし。……多分、向こうは俺のことなんとも思ってないと思いますよ」
俺は先生に向けていた笑みを、ほんの少しだけ崩した。
「何? なにかまだ悩み事があるのかい?」
先生は、また親身に俺の話を聞いてくれるみたいである。
「なんていうか……相手は俺のこと、どーとも思ってないくせに、自分の好き勝手に俺のことを振り回すんですよね。で、散々振り回した挙げ句、あっちにはあっちの、俺の知らない世界があって」
俺は極力姉貴の情報を出さないように、先生に吐露した。
手の中のスポーツドリンクの冷たさが消え、感じるはずのないポケットの中にしまった真珠のバレッタの冷たさが肌に刺さった。
それと同時に俺を誘惑し続けた姉貴の顔と、喫茶店で微笑みながら男と話す姉貴の顔が頭の中を流れていく。
俺ばっかり弄ばれて、意識して……馬鹿らしいけど、それを馬鹿らしいと切り捨てられるほど、俺と姉貴の距離は遠くないのである。
「向こうの世界……ねぇ」
考え込む俺達の間に、沈黙が走る。
「なんだったらその世界、踏み込んで荒らしちゃえばいいんだよ」
そしてそれを破ったのは先生であった。
その呟きは、雑踏の中で静かに響く。
「……え?」
「蹂躙して、全部奪って、そしたら向こうもこっちもなくなる……なんてね。ちょっと昔呼んだ小説に出てきた台詞のことを思い出しちゃった」
先生はそう言って、無邪気に笑う。
けれど俺は先生の言葉と瞳の色に宿った何か暗い淀みに気づいてしまった。
「あぁ、小説ですか。なるほど……でも悪役の台詞みたいですね、それ」
しかしそれらは先生の笑顔に流され、俺も姿勢を正して同じように笑った。
「まぁ、実際悪役の台詞だったし。だから君の悩み事へのアドバイスには向かないね。そうだね……やっぱり、まずはお互いの気持ちを確かめてみたらどうだい? 本当にどうとも思っていないのかな? そこは本当に君の知らない世界なのかな? 一歩踏み出してみると、ちゃんと色んな事が分かるかもしれないよ」
先生は爽やかな微笑みを浮かべた。
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