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夜伽月 よとぎづき 
第7章 秘密
「夜伽様、少し休みましょうか?」

昨夜遅くに振った雨で、足場の悪い道はぬかるんで、滑りやすくなっていた。清賢は月に気を使い度々休んだ。しかも途中からは道なき道を進んでいた。

「清賢和尚…ごめんなさい。なんだか足がなまっちゃったみたいで…」

清賢の足手まといにならないように月も一生懸命歩いていたが、それでも気が付けば遅れを取っていた。

「お疲れでしょう?」

「いいえ。休んでばかりだったら日が暮れてしまうわ」

「でも…ここから蓬が生えている場所まで約一刻(二時間)は掛かりますから…」

清賢はひとりで薬草取りに行き、往復で2時間も掛からずに洞窟へと戻ってきていたので、月に気を使って歩くスピードをだいぶ落としていることが分かった。

「あの川を渡り、あの尾根の斜面です」

清賢が指さした方角は少し道が開けたようになっていた。その先には渓流が淙淙と流れていてその先にはまだ紅葉が始まっていない青々とした山が見えた。

…ああ。あそこまでなら確かに2時間は掛かるわね。

月の気が少し緩んだ時だった。

「あっ!」

――ざざざざざーっ。


泥濘に足を取られ、前を歩く清賢の脇を滑り抜け15m程先まで滑り落ちてしまった。

「いたたたた…やっぱり慣れないと駄…」

泥だらけになりながら体を起こし、笑うと清賢が飛んで来て、しっと月の口元を抑えた。月は身動きせず、じっと耳を済ませた。


川の音が大きいが、微かに人の声が聞こえる気がした。

「こんな山奥に村人が来ているのかしら?」

月は静かに立ち上がると、大きな岩陰から声のする先をそっと覗いた。

「あっ…」

月は思わず声をあげそうになった。





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