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夜伽月 よとぎづき 
第7章 秘密
妹は、家族に相談する事も出来ず、何とかして兄を止めようとした。

「そして…事件は起こりました」

朝から雪がしんしんと振り、とても寒い日だった。こんな日に夜更けに外を出歩く者は少ない。誰にも見られずに犯行を行うには絶好のチャンスだと清賢は思った。

いつもの様にひと通りの少ない路地で身を潜め獲物を待った。真っ暗な闇でも良く目が効く清賢には、夜は普通の人よりも有利だ。雪灯りがあるとはいえ、暗い林の中でも良く見えた…筈だった。

「ひとりの若い男が、灯りも持たず軽装で足早にやって来たのです。何か用事を済ませた後でしょう。とても急いでおりました」

その様子をじっと見ていた清賢は藪の中から飛び出し、背中から斬りつけた…が、足元が雪で滑りバランスを崩してしまった。

その音に振り返ってこちらを見た少年の顔を見て驚き、ますます慌てた。

ーーーバスッ。

鈍い音とともに熱い血飛沫が清賢の顔に大量に掛かった。

「おに…い…ちゃん」

みるみる血の気を失っていく妹の顔は、とても悲しそうだった。ぱたりと倒れた妹は、そのまま息絶えた。

「妹は、自らを犠牲者にしてまで私を止めようとしたのです」

聖賢は瞬きもせず遠くを見つめていた。その目からは涙がぽたぽたと零れ落ちた。

「変わり果てた姿の妹を私は家に連れて帰りました。もう家族には隠すことは出来ませんでした。妹殺しの武家の次男、重罪人に課せられる“引き回しの上に獄門”は免れないし、一家断絶どころか、兄は父共々切腹を言い渡されるのは必定」

清賢の顔が突然厳しくなった。

「しかし、兄と父はその事件のことを隠すことに決めたのです。妹は病死として扱われ、私は仏門へと出されました」

快楽の為に人を傷つけるなんて、清賢のしたことは決して許される事では無い。しかし月は清賢は充分に償ったと思った。

「この業は、まだ続いているのです。私のこの快楽への欲求が続く限り」



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