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夜伽月 よとぎづき 
第5章 鬼鎧の洞窟
「おやめなさい。人魚を殺せば嵐がやって来て、それだけでは収まらず、その呪いはその者と親類縁者に至るまで及ぶと申します」


普段は穏やかな清賢が、きっぱりと言い切った。

「はははは…じゃあ人魚の肉を食せば,不老長寿になるってのは、嘘なのかい?」

野風は、清賢を誘惑するような目で眺め、わざわざ着物の裾からすらりとした白く細い足をちらりと見せて笑った。小坊主に静かに寄り添っていた清賢は、野風の方に向き直った。

「本当でございます」

清賢は、野風を澄んだ眼で見上げた。清賢は、その美しい足をちらりともみないので、野風は諦め黙って足を着物で隠した。

「不老長寿を得るには、それなりの代償があっての事。古くは推古天皇、宋の時代…唐人の話の中にも人魚の話はございます。そしてどの書物にも天変地異が起こる時、人魚は現れると申します」

有無を言わさぬ物言いに鬼鎧も思わず、月を締め上げている腕の力を抜いた。

「ふんっ」

月は硬い岩の床に落ちる寸前に、清賢に抱えられる様に助けられた。

「ゴホッゴホッ…」

酷く咳き込みながらも、月は身体をゆっくりと起こした。

「…ま。良いだろう。お前の力がどれ程のものか、試してみてからでも殺すのは遅くない。坊主に免じて許してやる」

鬼鎧は洞窟の奥へと消えた。

「忌々しい…お前なんて死ねば良かったのに」

軛がぷかぷかとふかしていた煙草をイライラした様子で野風は奪い取った。

「いひひひ。その機会は、すぐにやって来るぜ」

石打ちは薄気味悪く笑った。常軌を逸している石打ちの方が、鬼鎧よりもよっぽど“ホンモノの危ない人”に思えた。






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