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二兎を追って落ちた穴
第3章 清算
レンと私はまるで学生のように細かな記念日を設け――といって、交際の形になった時期は不明瞭でしたから、あの爽やかな季節の出会いの日から数えて――互いを祝福しました。そしてすっかり枯葉の落ち切った明日、世間はついに恋人の日を迎えます。誰もがせわしなく歩き、愛を囁き合う公然の日。私だって、そのおこぼれにあずかる権利がある。そう信じれば信じるほど体の芯がグラついていき、その夜遅く、暖房をよく効かせた部屋から電話をかけました。レンにです。

「ごめんなさい、明日。本当にごめん――」
「何かあった?」

話し方が絹のようなら、私を受け止めるのは羽毛のようなのです。

「実家のお母さんが倒れたって。もう病院の途中まで来てるの」
「そんな、容体は」
「軽いみたいだけど、こんなの初めてだから怖くて。多分、泊まると思う。もしかしたら、何日か」

恐ろしい話です。私はレンと過ごしたくてたまらなかったはずの日を、まるで会社をすっぽかすようなつまらない言い訳で、捨てようとしている。

「俺にできることある?」
「ごめんね。待っていてほしいの」
「もちろん。俺も、待つだけじゃなくて、祈ってるからね」

彼は私を捕まえてさえくれませんでした。もしかしたら、お母さんによろしく、などと言われはしないかハラハラしたものです。しかし、いずれこんなウソをつく女と一緒になるわけがないのに、自意識過剰でした。
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