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二兎を追って落ちた穴
第3章 清算
何か言われたわけではないのですが、車ではなく自転車を使いました。その方が道中を楽しめるから。時折サドルに接したところが切なさに耐えられなくなって止まり、街灯の下で塀にもたれます。しかし「閉じ込めて来い」、その言葉を胸に込めて、再び脚を広げてまたがるのでした。

安アパートの2階、西から二番目の202号室といえば、最後に会った時と同じ部屋です。階段に脚をかけるたびに濡れたショーツが張り付き、辱めの予感に自ら肩を抱きました。

かすかに音楽の漏れているドアをノックすると「空いてる。入れ」、そのまま開けてみれば、太く長い手が力強く私を抱きすくめ「あ、あああっ」あっけなく絶頂しました。

もう何もかも任せるだけ……タクヤの、スウェットの下の力強い筋肉に締め付けられながら、身を委ねたままダイニングを突っ切り、窓際のパイプベッドに放り出されます。雑に丸まった布団の上に――いつも綺麗にしていたのに、これは?部屋にはいやらしい匂いがこもっていて、机には開封済みのゴム製品、ワインボトルと紅の付いたグラス、そして二人分のボトル飲料が随分減っていました。

「さっき帰したばっか。お前、二人目」
「いや、そんなの聞いてないわ!」

覆いかぶさりながら腕を押さえつけられると、照明の逆光が彼の顔を隠しました。それがだんだん私に迫り、誰か知らない女の人の匂いが濃くなる。

「終わってシャワー使わせてる時に、電話あった」

ヒゲの整ったアゴが上下し、粒の揃った歯がかすかに光る。恐怖と後悔がのたうつようでした。

「帰る」
「あんな誘い方してくれたの、お前が初めて。だから可愛がりたくなって。それに、ちゃんと言うことも聞いてくれたしな」

コートが乱暴に開かれ、高い鼻を胸に埋めて吸われると、

「メスの匂い……濃いよ。ひどい彼氏だ」
「言わないでぇ」

そのまま舌を伸ばして首筋を吸い、耳を舐め、まだ熱と湿り気の残るゴツゴツした右の手が、上のフリースの中の肌へ。我ながらちょろい女。しかし、ほんの一時の緊張は瞬く間にほどけて染み出していき、空っぽになった全身は、揺り戻しのように快楽を求め――
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