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甘えた
第2章 02
「なーに、やってんの?」

耳元で囁く。

「ひぃぃぃぃぃ!」

あたしはオバケじゃないっつーの!悪い事してる時に突然声が掛かったら、こんな声出ちゃうのはわかるけど…

「あーあ、いけない子。もう、こんなことやめてね」

体を硬くした女子生徒にささやき声で叱る。

「は、はい。すみません」

「顔、覚えたから…」

謝りながら下を向く女子生徒のあごに手を添え顔を上に向かせると、冷たい視線で言い放った。

女子生徒が逃げ出すのと同時に背後から男の声が掛かる。

「こえぇぇ」

振り返ると、詰襟の学ランの前を全開にし赤いTシャツをのぞかせ、茶髪頭をツンツンヘアーにした男子生徒が立っていた。

たぶん、長谷川くんとつるんでる奴。

そいつを無視して下駄箱に向き直り、結愛花の上履きから画鋲を取り出す。

「あー、貸して?」

横から伸びてきた手に上履きを奪われてしまう。

「これ、俺らの役目っす」

そう言うと、手に持っていた紙袋に上履きをしまい始める。画鋲も、中傷の書かれた紙も。そしてピンクの手提げバッグの中から別の上履きを取り出して下駄箱に収めた。

呆気にとられるあたしに向かって、紙袋を掲げて見せる。

「こっちの上履きはダミーっす。んじゃ!」

「あ、ども…」

あたし、この事態にすごく慌ててたんだけど、長谷川くんにとっては想定内だったんだ。なんだか『住む世界』っていうのが違うのかなぁ…

守るつもりで意気込んでたのに、出遅れちゃってるし…長谷川くんはしっかり守ってくれてたんだね。

それから結愛花たちが登校してくるまでの間、何ひとつ問題が起きることはなかった。
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