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甘えた
第9章 09
「もしかして、都羽ちゃん?」

勇ましく決意をしている最中に、不意に男性に声を掛けられた。声の主に顔を向けると、ワンナイトラブの相手、爽やか浪人生ケンジが、見知らぬ人に尋ねるような作り笑顔で立っていた。

すぐに親しみの籠った笑顔に変わる。

「ああ、やっぱり。随分感じが変わったね?」

「ん?髪切ったから…?」

「私服姿も可愛いね」

さすがナンパ師、さらりと褒めてくる。

「これからお出掛け?」

一度きりの関係を貫きたいあたしはお世辞を無視して話題を逸らした。

「そ、予備校。ちゃんと勉強してるよ?都羽ちゃんはお洒落してどこへお出掛けするのかな?」

「えっと、ちょっと…そこまで」

「ははーん、デートかぁ」

自らまずい方向へ話を振ってしまった。お洒落なんてしてないし、デートじゃないし…でも、そんなワードに恥ずかしくなったあたしは、きっと顔が赤い。

「ふふっ、良かった。ちゃんと恋愛してるんだ?」

あたしの返事など求めていないようで、ひと呼吸おいて言葉を続ける。

「都羽ちゃんは愛をばら撒き過ぎだよ。だから足りなくなる」

「ん?」

意味が分からなかった。
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