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甘えた
第3章 03
あたしは水を張った2つの鍋をガスコンロの火にかけ湯を沸かす。

フライパンの中には父さんが作って置いてくれた野菜炒めの残りがある。

「ねぇ、父さん。良い人いないの?」

「あぇ?あ、そりゃ、いっぱいいるべー」

返事はいつもこうだった。

内装職人の父さんは、朝早く仕事に出掛け日が沈むと帰ってくる。

10時には床に就き、休みの日にはバイクのメンテナンスか昔からの友達の家に集まって、女の影が全然ちらつかない。

「じゃあ、再婚したら?」

「一人に絞れねーよ、俺モテモテだから争奪戦で死人が出ちゃうよ?やばいよ?」

「そっかぁ、父さんも大変だねぇ」

この会話は定期的に繰り返される。

母さんが死んでから男でひとつで育ててくれた父さんには、あたしのために遠慮はしてもらいたくなかった。

本心で言ってるんだけど、ひょっとしたら父さんは、あたしが寂しくて再婚して欲しくなくて強がりで言ってるんじゃないかって、そんな風に思ってるかもしれないな…
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