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甘えた
第5章 05
それから1時間後、父さんが帰ってきた。知り合いだというおじさんを連れて。

「と、都羽…」

あたしを見るなり、泣きそうな表情を浮かべ、次の瞬間には怒りの形相に変わった。

「誰にやられた?!」

すぐにでも殴り込みに行きそうな勢いに恐れたあたしは『事故だから』と言い張った。

あながち嘘じゃない、結愛花を守るため突発的な出来事…

「それより、早くペンキ落としてー」

父さんの知り合いのおじさんは美容師さんでペンキを落としてくれるという。

「あーこりゃひどいね。べったりついてる所は専用の溶剤を使っても落とすの大変だし、髪の毛も痛むなぁ…切った方がいいなぁ」

え?あたしは固まった。無駄に背の高いあたしは男の子に見間違われるのが嫌で髪を長くしていたのに…

肩からペンキをかぶったため相当上の方までペンキにまみれ、毛先に至ってはペンキが乾いて板の様になっている。

「髪はすぐ伸びるからさ」

切ることに慣れている美容師のおじさんはそう言った。

そうだよね、すぐ伸びる。

あたしの髪に付いたペンキは硬化し始め制服のシャツと貼り付きそうになっている。

諦めて気持ちを切り替えるしかない。

こんなきっかけでもなければ髪型を変えることなんてないだろうから…

「じゃあ、男みたいにならないようにお願いします」

庭先で椅子に座ったあたしの髪は肩の位置でばっさりと切り落とされた。
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