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裏切りのエチカ
第1章 裏切りのエチカ
 懲役二年食らって出てきたとて、まだまだ街は焼け野原。
 まともな仕事なんてあるわけない。
 仕方ない、食うために身体でも売るかな、と安宿に泊まっていたら、どこでかぎつけたのかイクミがやってきた。
「アンタが裏切ったの?」
「とんでもないわ。アヤメよ」
「アヤメは裏切れないわ」
「なんで?」
「取り調べの前に死んだからよ」
「なんですって!」
「隠し持ってたナイフで喉をついたの」
「知らない、私は何も!」
「私たちみたいなのが死のうがどうしようが、警察はかまっちゃいないわ。私たちみたいな戦災孤児の浮浪者のガキが何人どこで死のうが、知ったこっちゃないのよ」
「アヤメが……」
「だからアンタが裏切ったとしか考えられない。さ、来てもらうわよ」
 立ち上がって逃げようとしたら、外にはイクミの手下が待っていて、私は寄ってたかって押さえつけられた。
 猿ぐつわを噛まされて、縛られ、トラックの荷台に載せられた。
「みんな恨み骨髄なんだ。すぐに殺してもらえるとは思うなよ」
 荷台から眺める東京の空はどこまでも青く広がっていた。
 闇市を抜け、トラックは田舎町へと入っていった。
 まさか、虫に食わす?
 私はアキナの最期を想像してゾッとした。
「それだけはやめて、それだけはやめて!」
 叫んだが声にはならなかった。
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