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癖の下僕
第9章 6話 九段下啓
次の週の火曜の夜、啓の携帯に、市ヶ谷あかりから電話がかかってきた。
新曲のレコーディングの件だろうと思い電話に出ると、あかりのいつもの明るい声で
「もしもし、啓君?急で申し訳ないんだけど、明日、午後一時に事務所に来れる?」
と聞いてきた。明日はバイトも休みだし、美咲は大学に行くはずだ。
「大丈夫ですよ。何か持っていくものあります?」
と、質問を返すと、
「特にないかな。・・・あっ、一応、判子持ってきて」
「わかりました」
そう、啓が答えると美咲は「それじゃ明日ね」とだけ言って電話を切った。
次の朝、啓が目を覚ますと、すでに美咲は家にはいなかった。
啓は遅い朝食をすませて、事務所へ向かった。
事務所に着くとあかりはロビーのソファーに座って啓が来るのを待っていた。
あかりは一度立ち上がり、軽い挨拶をすると、向かいのソファーに座るよう促した。
すると、あかりはとてもうれしそうな笑顔を浮かべながら、話を始めた。
「急に呼び出してごめんね。どうしても直接伝えたくて・・・・実は、昨日、うちの事務所に電話があってね。
それでぇ・・・・啓君にぃ・・・・」
と勿体ぶりながらそこまで言うと、まじめな顔にもどり咳払いしてから
「夏休み、特別生放送番組。キングダムシンガーへの出演オファーが来てるの」
と言ってまた、眩しい笑顔を作った。
啓が、なにを言われたのかうまく理解できずに固まっていると、あかりは身を乗り出して、笑顔をのこしたまま、頬を少し膨らませて、啓の顔を覗き込み、
「ゴールデンタイムの生放送特番だよ?すごくない?しかも、特別新人枠!
うまくやれば、一気にスターにだってなるかもしれないよ」
と、嬉しそうな声で言った。