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癖の下僕
第11章 8話 篠崎紗矢
 紗矢が言われた通り、ノースリーブのブラウスを着てジャケットを羽織ると、権藤は一緒に社長室を出て、自宅へ向かうよう指示をした。
 会社を出て新宿駅に着くと、帰宅ラッシュで中央線はひどく混雑していた。権藤は紗矢の耳元で、
「ジャケットを脱ぎなさい。ちゃんと吊り輪を両手でつかむんだ。危ないからね。近くで見ているよ」
と囁くと、人混みの中に紛れた。紗矢は中央線のホームでジャケットを脱ぐと、次にやってきた快速電車に人混みに流されて乗り込んだ。
 紗矢は満員電車の中で、両腕を上げて吊り輪を掴んで、短い毛の生えた腋を晒していた。紗矢の周りに、ワキガの臭いがすぐに漂い始めた。
 すぐ右に立っていたスーツをきた若い男は、紗矢の顔と、毛の生えた腋を見ると、あきらかな嫌悪感を表情で表していた。
 左に立つ背の高い男は、窓に映る紗矢の姿を、じっと見つめている。
 紗矢の、正面に座る太った中年の男は、紗矢の腋毛をじっと見上げて、驚いた表情をしている。
 その、右隣の若い女性は、寝ているようだが、左側に並んで座っている高校生のカップルは、目を見合わせたあとで、ひそひそと話し始めた。
 私の、下品な腋毛をたくさんの人に見られてる・・・きっと、みんな、すごい見下した目で、私のことを見ている。
 そう思えば思うほど、紗矢の股間は濡れていき、腋からはたくさんの汗を流して、いっそう強い臭いを放った。
 私は変態・・・いや、たぶん権藤の言った通り、狂人なのだ。
 すると、紗矢の左に立っていた背の高い男が、紗矢の腰に強く手を回してきた。
 男は、紗矢の耳元で、
「急いでるわけじゃなかったら、次の駅で降りて」
と囁いた。紗矢は怯えながら頷くしかなかった。
 次の駅に到着すると、紗矢は男の手に導かれて電車を降りた。
 権藤は、少し離れたところから、その様子を見ていたが、電車から降りるのに間に合わず、そのまま次の駅に向かった。
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