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快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体
第35章 兄を見過ごすワケにはいかない
まてしや殺されたなんて、そのショックは計り知れない。オレがもし母親が殺されたら同じようにショックを受けて自暴自棄になるだろう。

兄が不憫に思えてきた。

「ところで」

兄が思い詰めたかのような顔してオレに何かを話そうとしていた。

「さっきのあの女、ソープ嬢なんだが、知り合いなのか?確か先生とか言ってたけど」

言うべきか、迷った。

「あの女に相手にしてもらったけど、頭の中でオヤジの事が離れられなくてな。結局最後まで出来ないで、終わってしまったよ…」

ハハハッと弱々しい笑いをして兄は天を仰いだ。

「なぁ、オフクロは元気か?」

兄は三才の頃に父親に引き取られて以来、会ってないという。

兄からしてみれば、母親は唯一の肉親だ。

「会ってみてえなぁ。まだ物心つく前に離れてしまったからな…」

「もし会いたいのならオレがオフクロに言ってみようか?」

オレは兄がこんなにまで弱ってしまっているのを見過ごすワケにはいかなかった。

「そんな事出来るのか?」

兄の表情が急に変わった。

「うん、だってオフクロが生んだ子供はアニキじゃないか?オフクロだって会ってみたいと思ってるはずだよ」

「そうか…じゃあ、悪いがオフクロに会わせてもらえないだろうか?」

兄はオレに頭を下げた。少なくともこの店に入って何度もオレに頭を下げていた。
それだけ兄が孤独なのだろう、オレも友達がいない今、兄の気持ちはよくわかる。

「近いうちに会えるようにしておくよ」
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