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ファニーキンキー
第10章 それは同日
「マグネットのフックとか無いよね?」
飾る位置を考えながら問いかける。
「無いから明日にでも買って飾っとくよ」
床に胡坐をかいたまま翔太郎が両手を広げる。
「おいで」
あたしはその姿に釘付けになった。
保育園に通っていたあたしは、毎日仕事に頑張っている親のお迎えを心待ちにしていた。
“おいで”と両手を広げ、お迎えに来た親御さん達にクラスのお友達は甘えて飛び付いていく。
それがとっても羨ましかった。
あたしの親は仕事の荷物と買い物袋を提げて、いつも両手は塞がっていた。
大変そうな姿だってことは理解出来たし、親の愛情が無かったなんて思ってない。
けれど、心の底では“おいで”と両手を広げて迎えてもらえることに憧れていた。
素直にして欲しいとも言えず、自分を抑圧したまま成長したあたしは、ご覧の通りひねくれもの。
今、目の前にあるのは、子供の頃切望していた姿。
「寧奈?…おいで」
翔太郎の口から発せられたその言葉はあたしの耳をくすぐった。
ゴクンと唾を飲み込んで、素直に飛び込んだ。
嬉しい…一度こうされてみたかったんだ。