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空蝉
第21章 所有



貴方が望む それだけの 理由で、わたし 見も知らぬ

きょうは、男に 抱かれます

所有物なら 否応も なく、意のままに そのからだ

供せるはずと 言う人の

目には、一縷の後悔も 躊躇いさえも みえはせず

好みの色に 染め上げた 貴方のための この花を

他の男に 穢させる むごい仕打ちを このからだ

受け入れるしか ありません



たとえ、見知らぬ 男でも 抗うことは 許されず

卑猥な指に そのものに 弄ばれて 果てしなく

終わることなき 肉欲の 贄ともなれば このからだ

あえなく、奥に ひた隠す 貴方とともに 積み上げた

はずの、わたしの 悦びを 目覚めさせても 参ります

そんな姿を 傍らで みられることが 苦しくて

いっそ、狂えと 見も知らぬ 男に縋り つきました



どんな快楽も 悦びも 貴方の声は 消せません

「抱かれてみれば そのからだ 俺じゃなくても いいだろう」

「お前は、所詮 誰にでも からだを開く 女だ」と

貴方の声が 哀しくて けれど、からだは 目の前の

男に媚びて 濡れ開き 自ら穢れ ゆくようで

「お願い、嫌いに ならないで」

「あなたのために しているの」

「だから、壊して しまって」と 泣いて、願って おりました



まじわりの香の 消え失せぬ 男が去った 褥には

わたしひとりが 置き去られ

不義の裁きを 待つように

男の精に 汚された からだを抱え みることも

できぬ貴方の 気配だけ 探して、荒い 息さえも

殺して、耐えて おりました

触れぬ貴方の 指先に 聞けぬ貴方の 声にさえ

もはや、わたしは 散らされた 価値なき花に 思われて

ただ、ただ、泣いて おりました



「はじめてなのに よく耐えた」

「仕込みは無駄じゃ なかった」と

思いがけない、その声に 「しゃぶれ」とだけの 命令に

なぜか、ほどける 苦しさは

見放されたら 生きられぬ 貴方のモノとの 自覚さえ

新たに生まれ くるようで

穢れた花を 隠すこと さえ、忘れ去り 駆けよって

ただ、許された 嬉しさに 愛しい肉を ほおばって

貴方の精を この口に ただ、それだけを 願います




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