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空蝉
第8章 性(さが)



初めて、わたしを 抱いたのは ママと付き合う ろくでなし

仕事もせずに ゴロゴロと

家で過ごして 昼間から 酒に溺れて くだをまく

そんなつまらぬ ひとでした

そんな男に 奪われた むすめを、奪った 牝猫と

なじる言葉の 哀しくて

わたしは、ひとり 泣きました



初めて、わたしを あげたのは 憧れていた 先輩で

やさしく抱いて くれました

けれど、拙い 愛からは 満たせぬものの 零れ落ち

触れ合う肌の 嬉しさの 奥で、暴れる欲望を

なだめるために 恨めしい 奪った奴の そのからだ

浮かべて、耐えて おりました



初めて、わたしを 売ったのは 興味などない 中年の

スーツ姿の おじさんで

買ったからには 元を取る そんな感じが、わびしくて

早く終われと それだけを 思って、耐えて おりました

もらった金を ゴミ箱に

捨てても消えぬ 後悔を 抱えて泣いて おりました



初めて、人を 好きになり 抱かれて知った 歓びは

罪の意識と 引きかえの

やさしい職場の 先輩が のろけて話す 旦那様

相槌を打つ その裏で 苦しさだけが つのる日々

いっそ、すべてを 打ち明けて・・・

違う、すべてを 諦めて・・・

惑って生きて おりました




初めて、あたしに 愛を告げ 指輪を買って くれたのは

取引先の 穏やかで やさしく笑う 人でした

「真面目な人なら 誰だって いいわ」と思い 申し出を

受けて、付き合う ほど、深く 優しい愛に 包まれて

いまが、一番 幸せと 言える、わたしに なりました



けれど、忘れて しまえない

刻みこまれた 快楽が 疼けば、愛に 満たされず

夢に逃れて あの頃の 記憶に、この身 弄らせて

日々を繕い 過ごします


やがて、わたしは あの頃と 違い、男に からみつき

もっと、もっとと 口走る そんな女に なるでしょう




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