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縣男爵の憂鬱 〜 暁の星と月 番外編〜
第1章 縣男爵の憂鬱
暁の華奢な白い手を月城の大きな手が包みこんだ。
…馴れ馴れしい‼︎
礼也は思い切り咳払いをし、月城を睨む。
「…で?暁はどうだったのだ?」
礼也は世間知らずな暁が月城に誑かされたのではないか⁈と、疑心暗鬼になっていたのだ。

…何しろ月城は、私より先に人工呼吸とはいえ、梨央さんの唇を奪い、どうやら光さんとも軽井沢でアバンチュールめいたものがあったらしいタラシ…いや、手練手管に長けた執事だ。
…油断も隙もあったもんじゃない!
梨央さんと光さんの次は私の可愛い暁か⁈
…絶対に彼が暁を誘惑したのだ‼︎
礼也の今にも噛みつきそうなドイツシェパードめいた眼差しと面構えにさすがの月城もタジタジとなり、暁の手からそっと手を離す。

そんな二人の静かなる攻防戦に全く気づかない暁は、無垢な瞳で月城を見つめる。
…けぶるような長く濃い睫毛の下には「恋」と印字されているかのような陶酔した瞳があった。
頬を薔薇色に染め、暁は薄紅色の形の良い唇を開き、答える。
…それは礼也に告げるというよりも、月城への愛の告白のようであった。
「…月城のことを好きになったのは僕が先なんです」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁈」
礼也は再び叫んだ。
学習能力の高い礼也は今度は椅子にしがみつき、ひっくり返ることはなかった。
「…僕がさる方と辛い失恋をして…そんな僕を月城はずっと遠くから見守り、優しく慰めてくれました。…そんな月城に僕は惹かれてゆきました。
…けれど、月城は僕の告白を拒み、僕は失恋したと思い込み、自暴自棄に夜の街で羽目を外したりしました」
礼也は思わず、叫ぶ。
「…お、おい!…それじゃ…」
…私が散々心配した例の一件は全て月城が原因だったのか⁈
疑惑と怒りの炎をメラメラと燃やす礼也を、月城はもはや気にも留めなかった。
果敢にも、礼也の目の前で暁の手を握りしめ、熱くかき口説く。
「…暁様!私は、私のような使用人が貴方様のように尊いお方の愛を受けるなど、おこがましくてできないと思ったのです。…そうでなければ…」
月城の長く美しい指が、暁の顎を持ち上げる。
「…本当はずっと前から、私は…貴方の哀れな恋の奴隷でした…」
「…月城…!」
二人の貌がうっとりと近づく。
礼也は慌てて立ち上がり、声の限りに叫んだ。
「こ、こらこらこらこら‼︎待て待て待て待て‼︎」




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