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縣男爵の憂鬱 〜 暁の星と月 番外編〜
第1章 縣男爵の憂鬱
…他には…

礼也は彼が知る限りで、暁と恋仲になりそうな男を思い浮かべてみる。
真っ先に浮かんだのは、華やかな容姿をした星南学院の先輩、ホテル王の息子 風間忍であった。
「…風間くんが一番怪しいと思ったのだが…彼は義姉上と連れ子を連れてパリに駆け落ちしてしまったからな…。…違うな…」

…あとは、暁の身近な男性と言えば、礼也の親友の大紋春馬しか思い浮かばないが…彼もまた既婚者だし、暁が14歳の時から親身に世話をしてくれる言わば第二の兄のような存在なので、論外であった。

そうなると最早該当するような男性は皆無で、お手上げ状態であった。
「…やはり、私が知らない人物なのかも知れないな…」
礼也は諦めて、溜息を吐く。

…と、その時。
執務室のドアが軽やかにノックされ、
「…兄さん、お待たせいたしました」
と、美しい声とともに暁が姿を見せたのだ。

「…暁…」
現れた暁を見て、礼也は思わず目を奪われた。
夏用の白い麻のジャケットに空色のシャツ、濃紺のレジメンタルタイを締めた暁は絵画から抜け出てきたような優雅さに溢れる美しさであった。
しかもその美しさには、今まで見受けられなかったしっとりとした匂い立つ艶のようなものが、加えられていたのだ。
白い肌は内側から照り映えるような艶めかしさが滲み出ている。
大きく切れ長の瞳はきらきらと輝き、形の良い唇は紅い茱萸のように熟れていた。
「…兄さん…?どうしましたか?」
小首を傾げる様子も妙に艶かしい。
「い、いや…。…暁、また一段と綺麗になったな…」
礼也はどきまぎしながらも、賞賛の言葉を口にした。
暁は長い睫毛を瞬かせ、頬を薔薇色に染めた。
「そんな…」

…恋人と上手くいっているのだろう。
その表情は幸せに満ち溢れ、兄から見ても眩しいくらいであった。
…暁が幸せなら、相手は誰であろうと…それで良いのだ…。
そう自分に言い聞かせる。

「…暁…」
「…あの…」
二人は同時に口を開いた。
礼也は兄らしく、笑いながら話を譲る。
「…お前から話しなさい。どうした?」
暁は少し躊躇しながらも、真っ直ぐに礼也を見つめ、告げた。
「…兄さん、お願いがあります」
「何だね?」
「…僕の恋人に会っていただけますか…?」
礼也は動揺のあまり、手元にあった湯呑みをひっくり返した。
…お茶は玉露で、温いのが幸いした…。






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