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縣男爵の憂鬱 〜 暁の星と月 番外編〜
第1章 縣男爵の憂鬱
暁の家を訪れたのは久しぶりであった。
麻布十番という、礼也から見たら下町の庶民的な町の通りを一つ入ったところに、暁の家はあった。
通いの家政婦の仕事は完璧らしく、こじんまりした家はどこも綺麗に掃除され、きちんと整理整頓されていた。
そして、客間で暁を待つ礼也を礼儀正しくもてなした。
暁が言うにはこの家政婦はかつては御殿女中も勤めた出自らしい。
礼也から見たら余りに簡素な住まいなので、心配していたが、このような品の良い家政婦が世話をしているなら大丈夫かなと少し胸を撫で下ろす。
…それにしてもどのような人物が暁の恋人なのであろうか。
同性の恋人…。
礼也は落ち着きなく、出された薫り高いダージリンを一口飲む。
…かつて礼也も学習院の寄宿舎にいた頃、男子学生に付け文をされたり、夜のベッドに忍んで来られたこともあった。
貴族の子弟の中には、念弟を持ったり、美しい少年を稚児のように可愛がったりする風習があった。
だから、礼也も自分はその趣味はないが、男色には理解がある方だと思うし、青年貴族や紳士の中には妻を持ちながら、年若の同性の恋人がいる者も知っている。
彼らは一種、退廃的な貴族の嗜みとして男色を愉しんでいるのだ。
…暁はどうなのだろうか…。
一人暮らしをしたいと言い出したのも恋人が出来たからだろう。
趣味の良い客間を見渡す。
和と洋を上手く取り入れたなかなか居心地の良い客間だ。
…ここに恋人と一緒に住んでいるのだろうか。
一緒に住んでいるということは…。
当然、愛の営みをしている訳で…。
礼也の凛々しい眉が苦々しく寄せられる。
…あの美しく儚げな弟を、我が物顔で組み敷く者がいるのか…‼︎
礼也は訳の分からない情動に駆られ、手荒くカップを掴み紅茶を流し込む。
「熱ッ!」
危うく火傷するところだった。
礼也は、気持ちを鎮めようと、腕組みをして深呼吸する。
…よそう…。下世話な想像をすることは…。
暁を穢すような妄想をしてはならない。
…とにかく、落ち着いて相手の男を見極めるのだ。
きちんとした男なのか…。
暁を任せても大丈夫なのか…。
「…兄さん、お待たせしました。…お連れしました…」
ドアがノックされ、暁の透明感のある綺麗な声が響いた。
…来た‼︎
礼也は、背筋を伸ばすと、今まさに開かれようとするドアを凝視した。
麻布十番という、礼也から見たら下町の庶民的な町の通りを一つ入ったところに、暁の家はあった。
通いの家政婦の仕事は完璧らしく、こじんまりした家はどこも綺麗に掃除され、きちんと整理整頓されていた。
そして、客間で暁を待つ礼也を礼儀正しくもてなした。
暁が言うにはこの家政婦はかつては御殿女中も勤めた出自らしい。
礼也から見たら余りに簡素な住まいなので、心配していたが、このような品の良い家政婦が世話をしているなら大丈夫かなと少し胸を撫で下ろす。
…それにしてもどのような人物が暁の恋人なのであろうか。
同性の恋人…。
礼也は落ち着きなく、出された薫り高いダージリンを一口飲む。
…かつて礼也も学習院の寄宿舎にいた頃、男子学生に付け文をされたり、夜のベッドに忍んで来られたこともあった。
貴族の子弟の中には、念弟を持ったり、美しい少年を稚児のように可愛がったりする風習があった。
だから、礼也も自分はその趣味はないが、男色には理解がある方だと思うし、青年貴族や紳士の中には妻を持ちながら、年若の同性の恋人がいる者も知っている。
彼らは一種、退廃的な貴族の嗜みとして男色を愉しんでいるのだ。
…暁はどうなのだろうか…。
一人暮らしをしたいと言い出したのも恋人が出来たからだろう。
趣味の良い客間を見渡す。
和と洋を上手く取り入れたなかなか居心地の良い客間だ。
…ここに恋人と一緒に住んでいるのだろうか。
一緒に住んでいるということは…。
当然、愛の営みをしている訳で…。
礼也の凛々しい眉が苦々しく寄せられる。
…あの美しく儚げな弟を、我が物顔で組み敷く者がいるのか…‼︎
礼也は訳の分からない情動に駆られ、手荒くカップを掴み紅茶を流し込む。
「熱ッ!」
危うく火傷するところだった。
礼也は、気持ちを鎮めようと、腕組みをして深呼吸する。
…よそう…。下世話な想像をすることは…。
暁を穢すような妄想をしてはならない。
…とにかく、落ち着いて相手の男を見極めるのだ。
きちんとした男なのか…。
暁を任せても大丈夫なのか…。
「…兄さん、お待たせしました。…お連れしました…」
ドアがノックされ、暁の透明感のある綺麗な声が響いた。
…来た‼︎
礼也は、背筋を伸ばすと、今まさに開かれようとするドアを凝視した。