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幸せの欠片
第9章 クラブで
 宣伝を目的にしているのはわかったけれど、そうなると、今までの全てが愛情から与えられる痛みとは意味が違って見える。

 ピアスを開けるのに痛みのなかったことが、麻衣たちを慮ってのこととなれば、ショーを成功させる目的ということになり、このクラブの存在自体が、悟たちの説明とは少し違って感じられた。

 その時、麻衣とアリアだけが全く同じ立場にあって、他の人たちは少し違うのではないかという疑問が湧き上がって来ていた。
 シャワーの後、消毒をしながら麻衣が言う。

「でも、アリアの鎖に付いてる石って、サファイヤみたいで綺麗だわ」

「麻衣さんの石だって、ルビーみたいで綺麗ですよ」

「今夜は、もうこのまま二人でいられるといいのにね」

「どうなるかはわかりませんが、少なくとも、このピアスがありますから、プレイは出来ませんよ」

「そうね……」

 二人は、シャワールームからキッチンへと移動した。

 お茶が飲みたいと言った麻衣のために、アリアがこだわりを見せ、アールグレイを淹れてくれた。

「しっかりとお花の香りが立つように淹れたつもりです」

「本当。とってもおいしいわ」

 そうしているところへ、悟がやって来た。

「ここにいたのか」

「はい」

「おかげで会員が増えそうだ」

「良かったですね」

「あぁ。大々的に宣伝をする訳には行かないから、会員からの紹介で、ほんの少しずつしか増えない」

「あの、私たち、今夜はどうなるんですか?」

「休んでいいぞ。まだ、アレをする気はなかったんだが、刺激的なことを望む客が多かったから、急遽準備をした」

「そうだったんですね」

 何となく不審な表情のまま、麻衣が言ったので、悟が気にしたらしかった。

「何か問題でもあるのか?」

「いいえ、そんなことはありません」

 そこへアリアが持ちかけるように言った。

「麻衣さん、食事でも作ります?」

「そうね」

「表向きは倉庫だから、デリバリーを頼むこともできるぞ」

「いいえ、いいんです、麻衣さんと一緒にお料理をするのが楽しくて……」

「じゃあ、冷蔵庫を見てみましょう」

 麻衣は、これまでいくつも通った料理教室で学んだことが、こんなところで役に立つとは想像もしていなかった。
 けれども、そこにある材料から料理を考えることが、パズルのようで楽しいと思えた。
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