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幸せの欠片
第3章 夫とのカンケイ
「ビールは飲む?」
「そうだな」
「今、持って来るわね」
缶のビールをグラスに注ぎながら、さりげなく夫の様子を伺った。
「今日は、予定がキャンセルになって早く帰って来たんだが、お前はデパートに行ったんじゃなかったのか?」
一瞬、ドキリとしたが、それで在宅の確認のために電話をかけて来たのだと分かった。
「えぇ。行ったんだけど、結局、食品だけを購入して帰って来たの」
「どうして? スカートが欲しかったんじゃないの?」
「えぇ、そのつもりで出掛けたんだけど、好みとサイズが合わなくて……」
「デパートで標準体型なら、いくらでもいいものが見つかっただろうと思ってた」
「えぇ」
「太った?」
「まぁ.....,少し」
「あ、そうだ。じゃあ、スポーツジムにでも通ってみるか?」
「えぇ、でも私、スポーツは苦手だから・・・・・・」
「実は、会社の提携しているジムがあって、家族も社割で入会できるらしい」
「まぁ」
「隣の駅のすぐ向かいだし、近くていいんじゃないかと思ったんだ」
― 隣の駅・・・・・・。
隣の駅とは、あの痴漢達が降りて行った駅だ。
きっと、あの男達は、乗り換えるか引き返すかしたのだろうし、隣の駅に留まっている筈もなかったが、駅を思い出しただけで体に小さな電流が走った。
でも、夫の悟は、そんなこととは露知らずに話をしているのだから、出来るだけ自然に振舞おうと思った。
「えぇ・・・・・・」
「行ってみて、好きじゃなかったら止めればいいさ」
「そうね・・・・・・。一度、行ってみるわ」
「予約制だそうだから、俺に言えば、予約しておいてやるよ」
「えぇ、ありがとう」
夫は頷くと、二つ目の春巻きを箸でつまんでいた。
見ると、夫のグラスのビールが残り少なくなっていたので、横から注ぎ足す。
その時、ふと自分の手首が目に入り、まだ紐の痕が残っているのが、はっきり見えた。
はっとして、夫の顔を見たが、夫は何も気付いていない様子だった。
慌てて手を引っ込めるのもおかしいので、出来るだけ自然に見えるよう緊張しながら手を引き、テーブルの下に隠した。