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幸せの欠片
第3章 夫とのカンケイ
 食事を終えると、夫はしばらくパソコンを開き、何かの調べものをしているようだった。

 その間に、麻衣は洗いものを終え、洗面を済ませた。

 夫が遅く帰って来た時なら、もうそろそろベッドで休むところだけれど、時間を見ると、まだ早かった。

 紐の痕を咎められると困ると思い、麻衣は仕事を探した。

 いつ見つかるかもしれないと思うと、夫の側にいるのが不安に思える。

 急ぎではなかったが、料理教室に持って行く布巾のことを思い出し、寝室の次の間でアイロン掛けをする準備をしていると、夫がやって来た。

「麻衣、寝るよ」

「でも、まだ時間が・・・・・・」

「せっかく早く帰って来たんだ。明日はゴルフもないし・・・・・・」

「えぇ・・・・・・」

「いいじゃないか、来いよ」

 恥ずかしいとは思うけれど、痴漢に遭ったことで体が敏感になっているのは事実で、夫を欲しいと思う。

 ただ、普段通りに振舞えるかどうか自信がなかったので、今夜、夫に抱かれることは避けたかった。

 けれども、月の障りのある時には、あまり外出をしないことを夫は知っている。
 
 デパートへ行ったのだから、そうとも言えず、とっさに良い言い訳が見つからなかった。

「今、行くわ」

 ひとつ嘘を吐くと、それを隠す為に、また別の嘘を吐かなければならなくなる。

 子供の頃、よく父親に言われたことを思い出す。

 その通りだと思う。

 だけど、今日起こったことを話したら、夫がどんな風に解釈するか分からなかったし、反応も、全く想像ができなかった。

 嘘を吐きたくはないけれど、黙っていれば、平穏な生活を守ることが出来ると思った。

 ― ただ黙っているということと、嘘を吐いて誤魔化すのとは違うのじゃないかしら?

 積極的に嘘を吐くというのでなくても、事実をそれとは違うように見せるという意味では同じだ。けれど、麻衣にとっては、波風を立てないことが、何よりも大切なことだった。

 意を決してベッドに向かう。

 ― いつものように自然に夫に身を任せれば大丈夫。

 まるで何もなかったように、ベッドの縁に座り、夫の横に滑り込んだ。



「麻衣、何か言いたいことがあるんじゃないの?」

 ベッドに入ると、突然、そんなことを訊かれた。

「え・・・・・・?」

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