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幸せの欠片
第5章 スポーツジム

 夫の言う「躾」のために、週末、家ではほとんど裸で過ごしたし、それどころではなかった。

「個室のコースがいいだろう」

「そうですね。足を上げたり、いろいろな格好をするのに、他の方々の前では恥ずかしいと仰る方もありますから……」

「ダイエットと言っても痩せ型になる必要はないんだ」

「奥様、何キロくらいの減量をお考えですか?」

「サイズダウンしたいんです……と言っても、5キロ痩せれば元の体重なのですが……」

「個室には専属のトレーナーがいるはずだが……?」

「あぁ、そちらをお考えでしたか……失礼いたしました」

「メニューを選べると聞いて来たのだが?」

「はい、わかっています。……じゃあ、専門のトレーナーをお呼びしましょうか?」

「そうしてくれ」

「少々お待ちください」

 そう言って、勇也は立ち、笑顔で出て行った。

 麻衣のためというのは分かっているが、個室でなくても構わないとも思った。

 足を上げると言っても、トレーニングウェアを着ていれば問題はないはずだ。

 もしかすると、夫が麻衣のそういう姿を他人に見せたくないと思っているのかもしれないので、ここは余計な口を挟まずに従うことにした。

「これまで話さなかったことがいろいろあるが、説明はしない。まぁ、すぐに分かるだろう」

「はい」

「生涯一緒にいるのだから、お前には俺の理想の女でいて欲しいと思ったんだ」

「え?」

 結婚前にも、こんなに甘い言葉をもらったことはなかった。

 ウィークディはここに通い、5キロ痩せて、週末には夫の躾を受ければ理想の女に近づくのだろうか。

 夫の言葉に胸が高鳴り、自分の幸運を思った。

 容姿は、そんなに悪くはなかったはずだが、特別に目立つようなこともない麻衣なのに、憧れる女性の多かった悟から結婚相手として選ばれたということは誇りだった。

 そして、また今日、こんなに素敵な言葉をもらった。

 傷つけ合いたくないから話題にすることもなくなった”子供を作ること”はほぼ諦めているが、そこは夫も同様なのだろう。

 夫婦が愛し合って生涯を過ごせれば、それも理想の人生ではないかと思う。

 夫にこんなに愛されるなんて、できる限りの努力で報いて、この人に幸せでいてもらいたいと思った。





 
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