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幸せの欠片
第6章 特別室
「麻衣さん、先に着替えてください。彼女がお手伝いします」

「はい」

「私はアリアといいます。どうぞこちらへ」

 
 ベリーダンサーの衣装を身にまとった彼女が日本語で言い、クローゼットに案内された。

 案内と言っても、同じ部屋の奥にカーテンで仕切られた更衣室があって、そこに衣装が並んでいるだけだ。


「どれがいいですか?」

 衣装の中には、彼女の着ているのと同じベリーダンスの衣装や、インドのサリーのようなもの、レースのたくさんついたドレスのようなもの、着物やチャイニーズドレスもあった。

 麻衣が迷っていると、彼女と同じベリーダンスの衣装を麻衣の前に当てて、「これが似合いますよ」とアリアが言う。

 水色と金糸で出来たそれには、鈴の音のするウロコのような飾りがたくさん付いていて、ハンガーに掛かったままアリアが振って見せると楽しい音がした。


「じゃあ、それにします」


 麻衣が答えると、アリアは嬉しそうに笑って、着替えを手伝い、衣装に似合うよう、さっと髪をアップに結い上げてくれた。

 麻衣の乳房は、そんなに豊かではなかったが、衣装で持ち上がると、とても美しく見えた。

 ちょっとふっくらしすぎたと感じている腰も、くびれを見せることで、さほど気にならなくなる。

 鏡に映った姿を見ていると面映ゆいけれど、新しい人たちの間で、その人たちのルールに沿っている感覚が麻衣を大胆にしていた。

 麻衣は、このコースを選んでくれた夫に心の中で感謝をした。



 衣装を着て、櫂の前に立つ。


「ゴーシャスです。よくお似合いですよ、麻衣さん」

「ありがとうございます」

「でもアリアが無理に着せたのではないでしょうね? 彼女はここでベリーダンスを教えながら、修行をしているのです」

「修行ですか?」

「えぇ、自分の国に帰ってから、サロンを開きたいのだそうです」

「なるほど……。あ、でも、衣装は勧めてはくださったけれど、自分で選びましたから、ご安心ください」

「それなら良かったです」


 アリアは、嬉しそうににっこり笑い、部屋を出て行った。


「ちょうど、お茶が入ったので、どうぞ」

「櫂さんは、ご一緒されないのですか?」

「では、私も頂きます」


 そう言って、キャビネットの中からカップをもう一組取り出し、二つ目の茶碗にお茶を注いだ。
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