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幸せの欠片
第8章 悟の出張
「三日間だから、お前も準備をしてジムに行くんだ」

「え?」

「合宿のようなものだ」

「はい……」


  アリアとの時間を思い出すと、体の奥の方がキュンとした。

 夫を愛してはいるが、アリアとの時間も楽しいと思う。

 アリアは、好きになって欲しいと麻衣に言った。

 そして麻衣の中にも、既にアリアへの愛おしさが膨らみかけているのを感じていた。

 アリアは「共鳴」という言葉を使った。

 同性だと、一緒に感じ合えるものなのだろうか?

 夫や櫂に与えられる痛みや恥ずかしさには、耐える悦びがあったが、アリアとの時間は全く別の、共有できる何かがあった。

 性行為に対して、今ほど興味を持ったことはないと思う。

 でも、それを夫が望んでいるのだとアリアは言った。

 これから起こることにも、まだまだ未知のことが多いかもしれないと思ったが、麻衣は、それを受け入れたい気持ちになっていた。




  翌朝、麻衣は、言われた通りに三日分の支度を始めたが、着替えのところで迷った。

 ほとんど着るものも要らないかも知れないし、重いものを持っても無駄になるだろう。

 結局、化粧品と、お気に入りの下着を準備したら、後は特に何も要らないと思った。

 家を留守にする準備をしようと冷蔵庫を開けた時に、ふと思いついたのが、アリアのために何かお菓子を焼いて行くことだった。

 ダイエットをしているのだから、アリアにプレゼントする分さえあればいい。

 冷凍室から小麦粉を出し、材料を混ぜ合わせて、さっとカップケーキを焼いた。

 夫の出張は、職業柄、少なくはない。

 でも、留守中に泊まりがけで出掛けるのは、これが初めてだったので、火の元や戸締りの確認を繰り返し、なんとか時間通りに家を出た。

 

 スポーツジムの4階に到着すると、アリアが嬉しそうな顔で迎えてくれた。


「麻衣さん、今日から三日間、ずっと一緒にいられるんです」

「えぇ、そうなの。夫が出張で合宿ですって」

「昨夜、それを知ってから、私は嬉しくて眠れませんでした」

「まぁ、そんなに早く知らせが来たの?」

「メールで送信されるから、情報は早いのです」


  パソコンや電子機器に疎い麻衣にも、アリアの言うことは理解できた。

 ただ夫が、麻衣よりも先にここに知らせたということに軽く驚いていた。
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