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幸せの欠片
第8章 悟の出張
「はい、わかりました」


 言葉は優しかったが、冷たい感じがした。


「準備ができたら連れて来てくれ」


 櫂は、デボラにそう言い残すと出て行った。 

 デボラは首を縦に振っただけで、麻衣にも笑顔ひとつ見せなかった。

 麻衣は、急に怖くなり、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

 夫からは、嫌ならやめてもいいと、このジムに来た時に言われている。


「デボラさん、私……」
 

 床に這いつくばったままの姿勢で麻衣が切り出すと、デボラは、麻衣の顎を持ち上げ、「なに?」と尋ねた。


「私、帰りたいのですが……」

「明日の夕方までは帰ることができません」

「でも、夫は……」

「あなたのご主人に、明日の夕方、お返しすることになっています」

「だけど……」

「話し合いはなしですよ。さぁ、それを脱いで! 私が衣装を着けてあげます」

「………」


 麻衣が黙っていると、デボラは、力づくでバスローブを剥いだ。


「きゃあ……」


 麻衣は、横倒しに床に転がってしまったが、デボラは気にする風もなく、首にさっさと首輪をかけると、乳房の周りとお腹の周囲、太ももに、それぞれ繋がったベルトを巻くだけのような衣装を装着させた。

 それからチェーンを首に着け、犬のように麻衣を歩かせた。


「ちゃんと歩きなさい。練習しているんでしょ?」

「はい……」


 麻衣は、鎖で引っ張られながら、デボラについて行くしかなかった。

 アリアは、今日はマシンの日だと言っていたが、例の檻のような部屋に入れられた。

 麻衣の恐れているドクターの日は、明日だと聞いていたのに、もしかすると、お仕置きのためかも知れないと思った。

 先日と違っているのは、診察台のようなベッドではなく、大きな体操用のためみたいなマットレスが部屋の真ん中に置かれていることだった。

 相変わらず、この部屋は薄暗い。

 麻衣は、この薄暗さも苦手だった。

 マットレスの真ん中辺りまでデボラに引かれてやって来ると、櫂が部屋に入って来た。


「今日も時間は、たっぷりありますから、しっかりと体に教えてあげますよ」

「返事はどうしたんですか?」

「はい、ご主人様」


 麻衣はもう泣き出しそうだった。


「デボラ、ベルトを頼む」

「はい」

 デボラは、しゃがんで麻衣の前に顔を持って来た。

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