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幸せの欠片
第8章 悟の出張
 案内されたのは、シングルベッドのあるモノトーンの部屋で、黒い二人掛けのソファーと白いローテーブル、テレビなどが置いてあった。

 普通の部屋と少し違うのは、ソファーの横に金属製のポールがあり、長い鎖が繋がれていることだった。

 デボラは麻衣の首輪に鎖をつなぐと、鍵を掛けた。


「ここがトイレよ、いいわね」

「えぇ」

「今から2時間休憩なの。後のメンバーの到着が少し遅れるらしいから、眠るなら眠っていてもいいし、ビデオを観たいならご自由に」


 それだけ告げると、デボラは出て行った。

 ドアがバタンと閉まり、施錠の音がしたので、鎖から逃れられたとしても、ここから勝手に出歩くことができないことがわかった。

 麻衣は疲れていた。

 しかし、横になってもすぐには眠れないので、デボラの言ったビデオを少し観てみることにした。

 モニターのスィッチを入れると、「報告」というビデオのタイトルが、日付順に並んでいる。

 ちょうど、今週の月曜日からの日付だった。

 何のビデオだろう、と思って、最初のビデオをスタートさせると、いきなりベリーダンスの衣装を着た麻衣の姿が大写しになった。


「あぁ!」


 恥ずかしかった。

 心臓が音を立てそうなくらいにドキドキし、冷や汗も浮かんだ。

 報告、というのが夫に観せるためのものだというのは、すぐに理解できた。

 データの圧縮をして、既に夫に送信されているのかもしれない。

 つまり、出張先で、夫はこのビデオを観ている可能性もあるということだ。

 ハッとして、ビデオを早送りにしてチェックすると、バスタブの中での行為も含め、思った通り、アリアとの情事の場面も撮られていた。

 ついでに、一番最新のビデオを観ると、麻衣が気絶する場面も映し出された。

 夫が、アリアとのことについて怒るにしても、気絶したことを知れば、通いたくないというのはわかってもらえると思った。

 アリアのことが気にかかったが、ここにいる間は全く身動きが取れない。

 アリアの言ったように、夫が「経営者側の人」だったとしたら、夫に必死に頼めば、もしかしたら、アリアのことも助けてくれるかも知れないと思った。
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