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幸せの欠片
第8章 悟の出張
 とりあえず、休んでおかなければならないと思った。

 麻衣には昼寝の習慣はないし、寝付けるかどうかが心配だったが、重い鎖を音を立てて引きずりながらベッドに入ると、すぐに沈み込むように眠った。



「起きなさい」


 デボラの声で目を覚まし、首を回すと鎖がガチャリと音を立てた。


「本当に世話が焼けるわね」


 そう言って、鎖をリードに付け替えると、洗面所に案内された。


「次のスケジュールがあるから、早くしなさい」


 麻衣は、デボラに対して、気持ちの上では服従できないものもあったが、逆らうことはしなかった。

 言われる通りに洗面の後、化粧品を使うと、リードに従い、廊下を這って鉄格子の部屋に入った。


  マットレスには、不織布のようなカバーが掛けられ、また麻衣は真ん中の方に引かれて行った。

 櫂がやって来て、言う。


 「麻衣さん。綺麗に歩けるようになりましたね」

 
そんなことを褒められても嬉しくはなかったが、「ありがとうございます、ご主人様」と答えた。

 続いて現れたのは、昨夜、アリアとの部屋にやって来た男だった。


「谷口と言います。まぁ、初対面ではないが、自己紹介はしていなかったね」


 櫂や他のメンバーとは違い、夫よりも年上の四十代に見える男性だった。


「麻衣さんが疲れていると聞いてね、まぁ、軽く縛って今夜は終わりということにしようと思っている」

「……えぇ」


 縛られることは既に経験済みだったし、そんなに恐ろしいとは思わなかったので、麻衣は内心ホッとした。


「じゃあ、始めようか」


 谷口がそう言うと、櫂とデボラが、端の方におかれていた大きなハンガーラックのようなものをゴロゴロと運んで来た。

 櫂が何やら道具を取り付けているのが見えたが、谷口が縄を持って来ると、デボラにキャミソールとショーツを脱がされた。

 麻衣は、人前で裸にされることに慣れてしまっている自分に驚いた。

 谷口は、乳房だけが出て来るように首から下を、縄でぐるぐる巻きにする。

 すると今度は、その上からデボラが、たすき掛けのようなベルトを麻衣に取り付ける。

 結構キツイとは感じたが、我慢できないほどではなかった。

「じゃあ、台の上に乗って」と、軽い感じで谷口に言われて「はい」と答えたが、麻衣は、台を振り返って驚いた。
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