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幸せの欠片
第8章 悟の出張
 しばらくすると、またデボラがやって来て、浴室に案内し、シャワーが終わると、昼食のことを尋ねられた。

「どうします? まぁ、普通に食べても、キレイにできる時間だと思うけど……」


 つまり、腸管の中に食べ物があっても、ドクターの手で、お腹の掃除ができると言っているのだと理解した。


「飲み物だけでいいです」

「そうね、その方がいいかも? じゃあ、ビタミンのタブレットを一緒に出すわ。その後は休憩の時間よ」


 デボラは、いつもの冷たい雰囲気は変わっていないが、不親切ではない。

 何に対しても正確なことが好きなだけな人なのかもしれないという気もした。



 午睡の後、デボラに起こされた。


「行くわよ」


 首輪にリードをつけられて移動するのには随分慣れたと思う。

 やがて、例の鉄格子の部屋に案内されると、前と同じように、診察台のようなベッドがあった。

 その隣の作業台には、既にシリンジやチューブが並べられ、準備万端だ。

 櫂がいて、台の上に上がるよう、指示した。


「腹ばいになって、お尻を上げるんです」


 麻衣は、足がすくんでいたが、何とか台に登り、言われた通りにお尻を上げる。

 デボラがアイマスクを持って麻衣の前に来たが、櫂は「要らないでしょう」と言って、それを止めた。


「麻衣さん、じっとしていないと、腸管が傷つくことがありますから、動いてはいけませんよ」

「……はい」


 受け入れたくはないが、これが終わったら夫の元に返してもらえる。最後の試練だと思って耐えるしかなかった。

 フーッと空気が動き、ドクターが扉を開けて入って来たとわかる。


「麻衣さん、今日は念入りに綺麗にしますからね。1度目の量は多くありませんが、後で、もう少し追加をします」

「……はい」


 麻衣にとって、その宣告はショックだったが、耐える他ない。


「行きますよ」


 ドクターが麻衣の中にチューブを挿し込み、シリンジを押すと、温めてあったらしく生ぬるい液体がお腹の中に入って来るのを感じた。


「はぁーー、はぁ、はぁ……」

「10分でいいですから、我慢してくださいね」


 先日の経験があるので、どの程度苦しいかはわかっていたが、麻衣にとって、やはり長い10分だった。

 やっとトイレに駆け込ませてもらえたと思っても、今回は終わらなかった。
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