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幸せの欠片
第9章 クラブで
「私の名前は、隠しても仕方がないことですが、名乗らないルールなので、原とだけ申し上げておきましょう。あなたの右側にいた男が谷口です。ご存知ですよね?」

「……はい」

「まぁ、自己紹介は、これで充分でしょう。でも、まぁ、これからは、ある意味、仲間として楽しんでいきたいものです」

「私は、もう、あのジムには通わないと決めているのですが、もしも、ここが好きになれなかったら、メンバーをやめてもいいのですよね?」

「あのトレーニングジムについては、ここのクラブの会員からも賛否両論ありましてね。まぁ、合わないとお思いの方をメンバーにしておく必要はないので、それはご自由にどうぞ」

「わかりました」

 麻衣は、原との会話で、かなり気が楽になった。

「では、おやすみなさい。また、明日」

 そう言うと、原は、あっさりと部屋を出て行った。

 すぐにノックの音がした。

 その音で、なんだか久しぶりにまともな世界に戻って来たような気がした。

「はい、どうぞ」

 入って来たのは、アリアだった。

「麻衣さん、『先生』は、どうでしたか?」

「アリアも知っているのね?」

「えぇ、まぁ……」

 アリアはそう言うと、くすくすと笑った。

「ジムのことから考えると、ここは、もっと怖いところかと思っていたわ」

「相手にもよりますけどね。ハードなことを好む人もいれば、そうじゃない人もいます。どちらかと言うと、VIPにはハードな人は少ないかも?」

「アリアは、どちらが好きなの?」

「ずっとハードじゃ嫌になります。でも、ずっとソフトでも飽きてしまうかも?」

「そういうものなの?」

「基本は、プレイですから、お互いが楽しくないと長続きしないと思います」

「でも、アリアは、国に帰って、こういうクラブを作りたいのでしょう?」

「えぇ。私の国には、退屈なお金持ちがたくさんいますから」

「そうなの」

「えぇ、いつか麻衣さんにも来て欲しいです」

「あなたの国へ?」

「はい。夏は50度近くになることもありますが、昼間は外に出ないで、のんびりと過ごすのです。冷房は完璧ですから暑くはないですよ」

「行ってみたいわ」

「ぜひ、来てください」

「えぇ。きっと」
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