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幸せの欠片
第9章 クラブで
 原とのアポイントメントの時間がやって来て、麻衣は、牢獄のように連なった部屋の一つへと向かった。

 ここを運営している人、とアリアが言ったのを思い出し、少し怖いような気もした。

 しかし、昨夜話した限りでは、原は真面目そうだったし、温厚で紳士然とした人物で、麻衣に恐ろしい思いをさせるような印象はなかった。

 穿った見方をすれば、冷静で目的意識を持った感じもするので、どこか麻衣には理解できない人のような気もしていた。

 でも、これはプレイなのだから、お互いが楽しめるということが条件のはず、と思い直してみたり、その部屋にたどり着くまで、麻衣は頭の中で、忙しくあれこれと考えを巡らせていた。

 部屋に入ると、既に原が来ていた。

 周囲を眺めたが、特に何の変哲もない四角い部屋に、白いマットが敷いてあるきりだ。

 部屋の反対側からも入ることができるのか、奥には扉があったが、特に鉄格子がついていると言うようなこともなかった。

 調度品の種類も、一人掛け用のソファーとガラスのテーブル、白い収納棚があるだけだった。

「昨夜は、よく眠れましたか?」

「はい……」

「緊張していますか?」

「えぇ、少し……」

「私は、実を言うと、あまり痛みを与えることには興味がないのですよ」

「はい」

「でも、羞恥心を引き出すことが好きなので、麻衣さんには恥ずかしい思いをして頂くことになります」

「……はい」

「あの痴漢プレイはどうでしたか?」

「どう……と言われましても、私に被虐的な趣味があるとは思っていなかったので、怖さと恥ずかしさしか感じていませんでした」

「でも、悪くはなかったでしょう?」

「えぇ、そうだったかもしれません。考えてみたら、意外と冷静でしたから……」

「そうですよね」

「まさか、ここで同じことを?」

「いいえ、そんな猿芝居みたいなことはしません。私は、縄師の異名を頂くほど緊縛の研究もして来ましたから、そちらも楽しんで頂こうと思っています」

 麻衣は、夫が上手に縄を使い、縛られた日のことを思い出した。

「夫に教えたのもあなたなのですね?」

「まぁ、少しだけ手ほどきはしました」

「……やっぱり、そうでしたか」

「お嫌でしたか?」

「初めてのことでしたから、嫌と言うよりも驚きでいっぱいでした」

 原は、うんうんと頷いてから続けた。
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