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無防備なきみに恋をする
第1章 誰にでもスキだらけ




「お嬢様。」


黒い高級車の運転席に座りハンドルを握る男が目を細め、あからさまに不機嫌そうに言葉を吐く。

男がちらりとバックミラーを見ると、そこには後部座席で窓の外を見ながら自然なウェーブの掛かった長い黒髪を指先でくるくると弄るいかにもご令嬢といった雰囲気を醸し出す少女が映っていた。


「聞いているわ。それで、一体何の話?」

「……。」


運転手は重々しく溜息をついた。どうやら後部座席に座るお嬢様は一筋縄ではいかない人種の人間のようだ。



姫崎 冬華(ヒメザキ トウカ)。

先にも述べたように艶やかで漆黒なのにも関わらず毛先は程よくウェーブが掛かっている長髪、その黒とは対照的に透き通るように白い肌、日本人にしては高めの鼻に明るい色のリップが塗られた唇、そして憂鬱げに細められた少し茶色がかった瞳を持つ美しい少女だ。


かわいい というよりも美しいという表現が相応しい。

今年で21となる彼女は日本ではまず知らない人はいないであろう大手企業のご令嬢であり、今は都内でも有数な私立大学に通っている。


「異性と2人きりでカラオケに行かれるのは如何なものかと。」

「大丈夫なのに。彼はそういう人じゃないわ」

「お嬢様」



ミラー越しに男が冬華を睨む。
その眼光に冬華も思わず押し黙った。


この運転手は、佐伯 玲斗(サエキ レイト)。佐伯家は代々姫崎家仕える世話役の家系であり彼もまたその一人。噂によると、20代後半らしいが本当のところは分からない。見た目からは噂よりも若い印象を受ける。

そして彼は冬華付きの世話役を任されている。

冬華に引けを取らない程の美形で、端正な顔立ちと真っ黒なミディアムショートの髪に切れ長の目。おまけに女ウケのいい低音ボイスと、完璧なスペック。


少し声を荒らげた佐伯は暫く黙った後、閑静な公園の脇に車を停車させる。急に停車したことを怪訝に思った冬華は眉をひそめた。


「佐伯?」

「彼はそういう人じゃない、と仰いましたが」

「ええ」


答えると、バックミラー越しに見える佐伯の瞳が冷たい光を放つ。冬華は思わず息を呑んだ。


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