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かごのとり ~ 家出娘の家庭事情 ~
第17章 翼を・・・ください
マリアの旦那が姿を消して

俺は…ひっそりと病室のドアに
手をかけた



『シノくん・・・』


再び泣きじゃくってたミユが
俺の背に声をかける





『・・・先帰ってくれ』






『シノくん・・・あたし・・・』








『帰ってくれ・・・たのむから』







『シノ…』







『帰れ・・・』






俺はミユに吐き捨てて
一人、ノックもせずに病室に入った。







個室のベットには
顔を完全に反対側に向けて

声を抑えるように小さく…小さく震えて
泣いてるマリアがいた。





『~~っ…~~っ…』


『・・・・・・』





俺は声をかけられず…名前さえ呼べず

黙ってベットの横に膝をついてしゃがみ

マリアの手を握った




『っ…~~…ぅ…っ…~~』

『・・・・・・~~っ』



マリアの手をつよく握って
マリアと目も合わせられないまま


ベットに突っ伏して
俺は声を押し殺した・・・




悲しくて悲しくて…たまんねぇんだ




マリアと、お腹の子と
ハラハラしながらも笑って過ごした

わずかな日々が・・・
幻みたいに消えていったその日々が

俺の脳内を掻き回す



母子手帳や…病院でもらった
まだ豆粒みたいな赤ん坊の写真を
嬉しそうに俺に見せてくれて
微笑んでたマリア・・・




一緒に育児の本みたり
男かな?女かな?なんて…

時には
名前・・・考える真似事してみたり



そんな…穏やかだった日々が
淡くまぶしい…泡みたいに


一瞬で消えちまったんだ




戻らない日々・・・






俺らにわかってるのは
今が現実だってこと・・・



ふたり揃って悪夢を見てるんじゃない




これは・・・現実なんだ。






マリアは俺だとわかっていて尚
顔をこちらに向けない


俺はベットに顔を押し付けて
声を押し殺して泣く


マリアと過ごした、その日々や
目の前のマリアの痛ましい姿


握った手から伝わる振動…
その果てしない悲しみを
感じながら






俺には・・・それくらいしか





俺には・・・それしかできなかったんだ
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