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鬼ヶ瀬塚村
第10章 禁句
『優子、おめッ!がっごぅ遅れるぞッ!』

達弘さんが山盛りにつまみ上げた肉を口に運ぶ優子に言う。
優子の左頬は少し赤く内出血していた。
無理もないだろう日に三度も真理子さんの平手打ちを食らったのだ。
僕も何度か食らった事があるが思わず男泣きしそうなくらい痛い。

『わがっでるよッ!』

優子が箸をポンとちゃぶ台に並べると"歯磨いでぐるッ!"と立ち上がった。
優子の左耳でだけ虚しくイヤリングが揺れる。

しばらくして口元を拭いながらセーラー服のリボンを結ぶ優子が姿を表した。

『おめ、ぢゃんど磨いだんが?今年も虫歯健診引っががっどるだば?』

達弘さんが優子を見上げながら言う。

『磨いたっぺッ!じゃあ、行っでぐるでなぁッ!』

優子は居間に手を振り玄関へとパタパタ走っていった。

『うるせぇのがいなぐなっだな』

紗江さんがポツリと漏らした。

『おめは飯食っでねぇで…はよ洗濯物干せやッ!あど…ほれッ和幸に乳やっでごぃッ!』

達弘さんが煙草を吸いながら紗江さんに言う。
紗江さんは"わがっだがね、やがましい亭主だ"と舌打ちしながら立ち上がった。
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