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鬼ヶ瀬塚村
第10章 禁句
『私が言えるの答えではない…』

予想とは違う宗二さんの反応に僕は"しまった…"と思った。

宗二さんのその両手が…日焼けとシミで黒ずんだその両手が…自転車のハンドルを力一杯握って震えていたのだ。
手の甲には太く血管が浮き上がり、指先はうっ血して赤くなっている。

僕は禁句を聞いてしまったんだ。咄嗟に理解した。彼を、宗二さんをとてつもなく離れた人間に思えた。

未知は怖い、未知は人をそそる…その未知の2つの二面性が今"禁句"という名の鉄槌を食らわしたのだ。

『"どど"とは…』

駄目だ嫌だ…聞きたくない…僕は陸に投げ出された魚のように口をパクパクさせていただろう。

自分の行いをこれ程にも後悔するのは数年ぶりだ…一度目は漫画家を志した事、二度目は漫画家になった事、そして三度目は"あの日"だ。

『信人くん。君にとっては愛の言葉かもしれないね』

『えッ!?』

呆気にとられる僕。
続ける宗二さん。

『私が言えるのはこれだけだ。もし、信人くんが本当に娘を…真理子を愛しているなら単なる音でしか意味をなさないだろう。そして村を受け入れるに違いない…ただし君が真理子を真に愛していなければ…』

宗二さんは間を置いた。
予想出来なかった彼の言葉を一つ一つ理解するのに数秒かかった。
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