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鬼ヶ瀬塚村
第10章 禁句
それは彼の予想の範囲だったのだろうか、それとも判断に渋っているのだろうか…それとも、彼は僕の反応を楽しんでいるのだろうか?

彼は僕に少し時間を与えてから続けた。

『君にとっては死の呪いと同じような言葉だろう』

大きな麦わら帽子が少し下を向く。彼は俯いているのだろうか?

『呪い…?』

『勿論、直接な呪いではないよ。映画や漫画みたいに幽霊に追いかけられてどうかなるようなもんではない』

宗二さんは淡々と続ける。

『私もかつて君と同じだったよ、信人くん。だけど私は美しい…妻弘子を選んだ。だからこうして今も生きている』

見ると宗二さんの両手からは力が抜けていた。
しかし、血管の充血具合が痛々しい。

『今、君は選ばなければならないかもしれない』

麦わら帽子からは静かで穏やかだが、どこか不安を煽る男の声がする。
その主は…真理子さんの父親なのだ。

『意味を知らずに生きるのもいいだろう。君の自由だ。しかし、君が本当の意味で真理子を理解し、愛したいなら…いつでも私は教えてあげよう』

『え…』

長い沈黙が訪れる。蝉の声も稲が揺れる音も、畦道の蛙の鳴き声も、牛舎から響く雌牛の唸りも…そう、僕の耳から離れて止まないあの竹林のざわめきさえ切り取られているように思えた。

音がなく、沈黙が僕と宗二さんの存在のみを許している。
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