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鬼ヶ瀬塚村
第11章 大学時代
僕は目線を足元に落としながら過去に思考を移していた。

初めて好きだと言ったのはどちらからだった?

初めてデートした場所は?

初めてキスした場所は?

初めて一緒に眠った日はいつ?

僕は一つづつ真理子さんを思い出して行く。
笑う真理子さん、泣いている真理子さん、怒っている真理子さん…沢山の真理子さんが確かに僕の中にいる。

その真理子さんが数珠玉のように繋がり、今を作っている。

………

『君、名前なんて言うの』

ビクッと僕は飛び上がる。
顔を上げると黒髪を顎で切り揃えた綺麗な女性が見下ろしていた。
机にへばりつくようにして鉛筆を動かしていた僕は手を止めて彼女を見上げる。
どこか意地悪そうなつり上がった目付きの人だ。興味津々に僕を見ている。

大学に入学してすぐに入部した漫画研究部で初めて女性から声をかけられた。

『あ…えっと…あの…すみません…』

僕は机の上のノートを閉じて、眼鏡をかけ直し縮こまった。

『あら、なんで隠すのよーッ?』

彼女は僕からノートを取り上げる。

『あッ…駄目です…やめてください』

僕が言っても彼女は舌先をペロッと出しながら否定した。

『嫌よ』

なんて失礼な人なんだ。
これが真理子さんの第一印象だった。

『やだッ!嘘ぉ、君すっごく絵がうまいんだねッ!』

彼女はノートを広げて驚いた。
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