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鬼ヶ瀬塚村
第11章 大学時代
女性は"荒岩真理子"だと名前を教えてくれた。

僕は放課後、この得体の知れない先輩の買い物に付き合わされていた。

さっきから画材道具ばかりを値札なんかに目もくれず僕へと渡していく。

『先輩…どれくらい続くんですか?』

『んー…そうねぇ』

真理子さんは筆だとかGペンだとかトーンだとか油絵の具だとかを僕へどんどん渡していく。

僕はそのたびにそれを手にしたカゴへ入れる。

最悪だ。
こんな人に絡まれなければ、僕は今頃家で漫画の続きを描けてたはずなのに。

『先輩ってば!』

『うるさい奴だねぇ君はッ!』

彼女はようやくクルリッと小さく回転して僕をジッと見つめる。
大きな目がギョロリと僕を捉える。
右目は普通の二重目蓋なのに、左目は印象的な三重目蓋だった。

『あんたの腕が限界になったら』

彼女は悪そびれるもなく軽やかに言う。
この人はどこまでも僕を怒らせる才能があるらしい。

『僕、帰らせてもらいます』

僕はカゴをその場に置くと彼女を置き去りにして画材屋から出た。

商店街を抜け、家に帰ろうと駅の階段をかけ上がる。

『え…』

階段の一番最上部に真理子さんが仁王立ちしていた。

僕はこの時思ったものだ。
"こいつはとんでもない女"だと。
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