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鬼ヶ瀬塚村
第12章 達弘
世界的にも名の知れた漫画家なのに、彼は一度も公には姿を表さないのだ。

『いつ会ったんですかッ?』

『いづだっだがな?…あぁ…』

達弘さんは思い出し、うんうん唸ると

『いぢねん前だ』

と言った。
随分最近の話だ。

『ま、来た理由は教えらんねげどな』

達弘さんは腕組をし、ニヤニヤと笑う。

この村は一体なんなんだろうか?
過疎化の進んだ廃村のようかと思えば整った車道と、新築のような日本家屋が並ぶ。
どこか不便な田舎臭さは全くない。全ては緩やかなのに、何か異質な新鮮さが所々隠れている。

まるで、箱庭みたいだ。
誰かが作った大きな庭の中にいるようだ。

そして、優子が大ファンだと言っていたミュージシャンTSUNAも訪れている。
そしてTSUNAは優子曰く"どど"だ。
世の中の最先端がこの村に当たり前のように溶け込んでいるのが薄ら寒い。

異質他ならない。
整った道や、真新しい家、コンクリートで建てられた立派な牛舎、傷も錆もない街灯…そして有名人のTSUNAや徳川マイケル先生がここに来た事も。

『達弘さん』

『なんだっぺ?』

『徳川マイケル先生も…"どど"だったんですか?』

達弘さんは僕を見つめた。黙っている。
そして、映像がスロー再生されるように達弘さんの顔が人懐っこい子犬のそれからジワジワと鋭い狐になっていった。
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