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第15章 畜生道

一郎さんは鼻から軽く息を抜くと頭をポリポリ掻いた。
癖毛のうねった髪の毛がモサモサ動く。

『少なぐども僕は信人ぐんば殺さねぇっぺよ』

彼はそう言うと、首に巻いていた手拭いを僕の顔に押し付けた。

『こげな顔ばじでぇ…よっぽど怖がっだんだな』

一郎さんは言いながら手拭いを動かす。

『聞いちまっだがらには帰す事ばでぎんよ、なッ？』

一郎さんは仕方なさそうに笑った。

『おね……おねおね…お願…い…し…ますッ！東京で…誰…に……も言い…ませんッ！！』

『そうは言われでも、僕が決めるごどじゃねぇがんな…』

『…お願いぃぃ………助けてぇ……』

僕はせっかく綺麗に泥を脱ぐってくれた顔を再び水田へ押し付け土下座した。

『…真理子ちゃんおっぼいで逃げんのが？』

一郎さんは言った。

『好いで好かれでじゃないんが？ん？』

『………』

『まぁ、ええば。ちょっどこち来い…ひんでぇ格好だ』

一郎さんはハハッと乾いた笑い声を上げながら僕の腕を持ち上げた。

『どりあえず、信人ぐん。こち来いば』

引きずられるようにして僕は暗闇に佇む小さな掘っ立て小屋の前に連れて行かれた。
真理子さんの隠れ家より一回り大きく見えた。

『ん～…あっだがなぁ？』

一郎さんは懐中電灯を中に照らしながら手探りで進んでいく。