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鬼ヶ瀬塚村
第15章 畜生道
『あっだ、あっだ、ほれ、どりあえず着んざい。ちんぽこ丸出しで歩がれでも困るばな』

一郎さんは僕に黒く埃だらけの長いジャケットコートを手渡した。

『これな、僕が猟ずる時に着るんでずわ。秋場にね、ええ鹿が獲れるんでずわ』

僕の様子とはうって変わって一郎さんは淡々と言う。僕は手渡されたまま背中を丸めてガタガタ震えていた。
震えと落下の怪我であちこちが痛い。

『おおぉ~~~いッ!!』

声がして僕は飛び上がり、再び嘔吐した。
一郎さんが"あれまぁ…"と呆れる中、声は近付いてきた。
宗二さんの声だ。

『こんな所まで走ってきたのか…やぁやぁ…久しぶりに走ったよ』

宗二さんは息をハァハァ言いながら僕へ歩み寄った。

僕は黒いジャケットコートを抱えながらブルブル震えていた。
涙が止まらなかった。

『義兄ざん、どすんだ?眠らぜだってぇ真理子ちゃん言っでだけんどよ?』

『私が解毒で起こしたんだよ』

『どうすんだっぺ?話つうっだんじゃば?貰うんが?』

貰う…ビクッと僕は彼らに挟まれながら反応した。
もう僕には理解出来たからだ。
彼らの選択肢の中にやはり僕を殺す選択があるようだった。

『いや、貰わない。真理子の事を考えれば貰えるはずがない』

宗二さんはまだ肩で息をしていた。
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