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鬼ヶ瀬塚村
第19章 あの日
『あのね、お医者さんがね3ヶ月だって教えてくれたのッ!』

『へぇ、余命が?』

僕は相変わらず背後ではしゃぐ真理子さんに適当に相槌しながらトーンを張り付け始めた。

『違う違うッ!赤ちゃんだよ、赤ちゃんッ!』

僕はトーンを切る手を止めた。
カチカチカチッとカッターナイフの歯をしまう。

『真理子さん、妊娠してるの?』

僕はようやく彼女に振り返って言った。
彼女は弾けんばかりの笑顔で頷いている。
僕は無表情で固まった。
彼女の言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

ようやく理解した。
彼女は妊娠3ヶ月なのだ。
そして父親は僕だ。

『ねぇねぇ、引っ越そうよ?赤ちゃん生まれたら狭いじゃない?』

真理子さんは嬉しそうに言う。

僕は軽く脳震盪を感じた。
視界がかすかに揺れた。

『本当なの?』

『本当だよ?診断書もあるよ?エコーの写真も貰ったよ?』

僕は嬉しくなかった。
最低だ。

真理子さんと付き合い始めて半年程経った時から彼女は僕のアパートに半ば強引に自分の居場所を作った。毎日一緒に起きて、朝ごはんを食べ、テレビやなんやかんやを見て、漫画を描いて、学校に行って、漫画を描いて、昼御飯を食べて、漫画を描いて、ブラブラ商店街を歩いて買い物して、漫画を描いて、晩御飯を食べて、お風呂に一緒に入り、セックスして眠る。

そんな日々だった。
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