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鬼ヶ瀬塚村
第19章 あの日
『ノブが就職してさ、私は家で漫画描きながら赤ちゃん育てるのよ』

『僕が就職?』

『そうよ、どこかのメーカーだとか企業に就職するの。ノブ、背高いからスーツ似合うじゃない』

『本気でそう言ってるの?…僕は漫画家になるんだよ…?夢を諦めろって言うの…?』

『駄目なの?子供が出来たら結婚したいねって前に話してたじゃないッ?』

『あれは…』

ピロートークだ。
天井を2人で見上げながら"あれはオリオン座だね""あっちは北斗七星"なんて、シミを星座に見立ててくだらない事を言っていたんだ。
"赤ちゃん欲しいね""そうだね""結婚しようね""そうだね"
そう言って僕は再び彼女に覆い被さっていただけなんだ。

『きっとうまくいくよッ?私とノブだよ?大丈夫だよ』

真理子さんは必死に僕に言う。

子供の時から漫画が大好きで、友達と漫画ごっこをしたり、1日中4コマ漫画を描いていた幼少期。

やがて学校で一番絵がうまいと言われ、夏休みの絵画コンクールはいつも金賞だった。

みんなが似顔絵をせがみ、休み時間には人気者。

やがて中学に上がる頃には何でも描けるようになっていった。
僕は羨望と嫉妬を受けた。
堪ら無く快感だった。

高校に上がる頃には少年漫画なんて子供っぽいと嘲笑い、何人かが僕から離れていった。
僕はそれでも漫画を描き続けた。
そして高校一年生の夏休み、僕は一作の漫画を描きあげた。
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