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鬼ヶ瀬塚村
第19章 あの日
真理子さんはニヤニヤしながらそう言うのだった。

『10年後なんて…わかりもしない先の事じゃないの。僕、賭けた事すら忘れちゃうかも』

僕が言うと真理子さんは膨れっ面になって突然"帰るッ!"と立ち上がった。
何が癪に触ったんだろう?僕は理解できないまま閉じて行く玄関のドアを見詰めていた。

相変わらずのめちゃくちゃな人だ。
違和感?何が違和感だったんだよ?
僕はちゃぶ台の煙草に手を伸ばし、そして気付いた。

『あれッ?…鍵がない』

合鍵が無くなっていたのだ。
間違えて真理子さん持って帰ったのかな?まぁ、いいや。
僕はそんな風に思いながら頭をポリポリ掻きながら煙草の先に火を着けた。

………

『真理子さん、結局さ…僕は真理子さんの事なんて表面上でしか見てなかったんだね』

『表面上?うーん、でもわかるはずないでしょ?こんな秘密』

僕の隣で真理子さんが言う。手の甲には蛍が止まって光っていた。

ドーン…ボーン…と階段の上からは達弘さんが指揮する太鼓囃子が響いている。

『いや、この事じゃないよ』

『何よ?』

『なんでもないよ』

僕は左手に重ねられた真理子さんの右手を握った。

僕は伏線を回収出来たのだろうか?
今になってやっと、この村に来てやっと、僕は真理子さんの伏線が理解できたんだと思う。
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