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鬼ヶ瀬塚村
第20章 懺悔の時間
『あら素敵な答えね。嬉しいわ』

弘子さんは穏やかに微笑んだ。

『正直、さっきまで僕はこんな情けない格好でずっと震えていました。逃げ出そうと…それしか頭にありませんでした』

『誰だってそうよ。私があなたの立場なら同じ様に逃げたわ、裸んぼでね』

弘子さんはジャケットコートから伸びる僕の泥だらけの脚を見て笑った。

『あ…いや、すみません…』

僕は両足を小さく真ん中へと寄せた。

『ふふ、夫の宗二さんがこの村に来た時はあなたよりもっと酷い格好だったわ。今でもそれを話すと子供みたいに恥ずかしがるのよ』

弘子さんはスッと視線を持ち上げて目の前に広がる水田や田園風景を見つめた。
釣られる様に僕も見た。

かすかに聞こえる太鼓囃子に負けるものかと鈴虫やカエルや蝉が鳴いている。

澄みきった紺の空には大きくて丸い月が真っ白に輝いていた。

風が得体の知れない臭いと土独特の香りをまい上げている。

『夫には罰を下します。掟ですから…』

不意に弘子さんは言った。

『えッ?』

『部外者に村の秘密を洩らすのはいけない事なのよ。最上級の咎めを与えなければならないの、私にその権限はもうないけれど…真理子が下すでしょう』

『…彼を…殺すんですか…?』

僕は震える声で彼女に訊ねた。
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