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鬼ヶ瀬塚村
第20章 懺悔の時間
さっきまでの恐怖は弘子さんの言葉や宗二さんの想いでかき消されて行く。

おかしな感覚だった。

こんな理解が難しい奇妙な村で、僕は欲しくて欲しくて堪らなかった物を得たのだ。
少年時代のあの居心地の良さを感じた。

僕は生きていていいのだ。
僕は生きていける。

何を恐れたんだろう。
逃げ出して、見つかり、殺されるのを恐れる程東京に僕の居場所はあっただろうか?

真理子さんよりずっと下に生き、自分の価値もわからず、誰かに教えて貰えず。ただ心臓が脈打ち送り出す血液を循環させていただけだ。

けど、真理子さんはそんな中確かに僕を必要としていた。
悩み、そして出した結論は僕との別れだった。
真理子さんは別れを選んだけれど、彼女が夜叉の面を外した時のあの表情はそうではない。

秘密が洩れた事への奇妙な安心感を感じた泣き顔だった。

真理子さんはようやく重圧から解放されたのだ。

僕はここにいなければならない。

『酷だとは思うわ。けれど、わかって欲しいの』

僕はようやく顔を上げて弘子さんを見た。
彼女はまるで聖母のように優しく微笑んでいた。
とても恐ろしい事を彼女は聖母の笑みで言うのだ。

『…いえッ』

懸命に答えた。
弘子さんは静かに頷いた。

そして僕は鬼ヶ瀬塚村の人間となった。

『可愛い泣き顔だ事、本当に若い頃の宗二さんみたい』

弘子さんは僕の顔にソッとハンカチを当てた。
僕は泣いた。
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