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鬼ヶ瀬塚村
第21章 掟の教え
ようやく泣き止んだ僕を見て弘子さんは言った。

『さぁ、上に行きましょう。あなたも"しん"を見届けて、そして村人に紹介します。まだ会っていない方もいるでしょう?』

僕はなされるがままだ。
頷いた。

自分勝手に生きて来て、結局袋小路に自分を閉じ込めた。
閉じ込められるなら、ここで良い。

僕は立ち上がった。

『少し肩を貸してね、足が痛むのよ』

『おぶりましょうか?』

『あら、はしたないけど…甘えさせて貰おうかしら?真理子に怒られちゃうわね』

僕は弘子さんの前にかがんだ、細く華奢な両手が僕の肩甲骨に触れ、そして弱々しく肩にすがった。

『行きますよ』

僕は立ち上がり、停止してしまった。
弘子さんはまるで枝のような身体だった。
軽く、重量を全く感じない。
まるで小さな赤ん坊をおんぶしている様だった。

彼女はこんな身体になるまで僕と真理子さんが来るのを待っていたのだ。

生きたい気持ちは誰にでもある。
彼女は生きたかった。
けれど、娘を不幸にさせたくはなかった。
僕がいなければ彼女の中で真理子さんの幸せは成立しないのだ。

僕の人生で待っていたのは編集なんかじゃなく、この村だったんだ。
改めて彼女の重みにそう思った。

"卒業したら必ず来てね、期待してるよ"

編集は待ってはいなかった。
僕にだけじゃなく多くの人間にそれを言ってきたのだろう。

信じていた言葉の中にある僕が欲しかった想いは村にある。

僕は階段を上り始めた。
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