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第28章 横山総合診療所

『いえ…まだ結婚はしてないんですよ』

僕が答えると京子さんは目をまん丸にして驚いた。

『えッ？まだ婿どんじゃねぇのが？』

『はい…』

『へへ、はよ作って恵みを与える女神様産んでぐれよ』

京子さんはつまらなさそうに唇を尖らせた。

『うおおおおおおおッ！！！！』

僕は身体をビクつかせた。
達弘さんが入った診察室からまるで獣の雄叫びのような声がしたのだ。

それを聞いて京子さんと早苗さんの顔は少しばかり陰った。

バンッと勢いよく診察室の扉がけたたましく開き、顔を真っ赤にした達弘さんが飛び出してくる。

彼は"うおおおおおおおッ！！"と叫びながら待合室の扉を拳で開き、外へ飛び出していった。

『達弘さんッ！？』

僕は慌てて彼の後を追った。
達弘さんは軽トラを強引にバックさせ砂ぼこりを上げながら駐車場から発車させた。

ハンドルを握る彼の顔は真っ赤に腫れ、涙なのか汗なのかわからないもので濡れていた。

『達弘さんッ！』

僕が呼んでも達弘さんは止まらなかった。
軽トラを蛇行運転させながら走らせた。
しかし、途中で斜めに止まり、運転席のドアが開くのが見えた。

僕は小さく見える軽トラへと走り寄った。

達弘さんは"うがあぁぁぁッ！！"と叫びながら運転席から飛び出し、水田へと飛び込んだ。